放課後のデッサン2011

放課後のデッサン タキシタリョー
2011-06-03 16:00:28
曇天の街路だが、本を読む場所をみつけるために、歩く。
雨が降ったら、降ったでいいのだ。
よく通る、金網に囲まれた公園。
フェンスの背が高く住宅地の真ん中にあるせいか、そとから眺めた閉息感がここに入るのを、いつも敬遠させていた。
「野球・ゴルフ・サッカー等はみんなのめいわく!やめましょう」
僕は、読書。
誰もいない。
せまい入り口を抜けて細長いベンチに座った。
意外とひらけた運動場は、所々に木が点在している。
野球をやろうにもサッカーをやるにも、この風格ある木がじゃまするだろう。
少し風が吹いた。
金網を背に、うすっぺらいコンクリのベンチで、本を開く。
ひらけた空気が、ぽっかりとした午後を放ったらかしてくれる。
トンっと
運動場にサッカーボール。
短パンの少年が、追っかけて蹴る。フェンスに跳ね返って、また蹴る。青いシャツにはBrazilと書いてあった。
フェンスの壁当てを聞きながら、また活字に目をうつす。
「まさかのえらーではありませんか」
半ズボンの男の子。
「変化球」
「おれのアンダースローをうけてみろ」
こっちではキャッチボールが始まった。
捕りそこねたボールが足もとに転がる。
僕が拾うより早く、跳びついて投げる。
いつの間にか、そこかしことキャッチボールをする子供らでいっぱいになった。
おっきい子や小さい子が、
すぱーん、すぱーんと
グローブのいい音をさせる。
活字の中で、跳ね回る無邪気な声は、校庭の休み時間を過ごしているような、懐かしい気持ちにさせた。
さっきのBrazilサッカー少年は向こう側で、誰かのグローブを奪って、木の周りを追いかけっこしている。ここじゃサッカーよりキャッチボールだ。
公園の角に集まる、小さな集団がバットを持ってきた。
フェンスの入り口を、
二人のランドセルの子がポッケに手を突っ込んで眺めている。
サッカー少年は誰かのバトミントンの羽を拾って投げだ。
「土井どいーっ」
「前田セカンド」
これから雨が降る予報だが、そんなのお構いなしに草野球がはじまりそうだ。
よごれた黄色いテニスボールを振りかぶって投げた。
にぶい音は、元気な放物線を描いて、二塁の奥の針葉樹を越えた。
本を読むのに、気が引けた。
ここは君たちの場所だ。
「野球・ゴルフ・サッカー等はみんなのめいわく!やめましょう」
区民の看板に、つい吹き出してフェンス越しを振り返ると
背の高い木は、グラウンドを覆う曇のカタマリを貫ぬき、はじけた声がふりまかれる。
少し風が、吹いた。
本日も訪問ありがとうございました。涼